京の彩り・染と織

室町から桃山時代の染織③-辻が花染

2016年06月

辻が花染は、絞りを主な技法とし、墨による描き絵や摺箔、刺繍などを併用して文様を表わした染織品です。染織研究家の山邊知行氏は、辻が花染は「室町中期頃からその素朴な姿を現はし、次第に華やかな発展を示して、桃山期には縫箔と対抗してその独特な寂しさのある美しさに一代を風靡しつつここを盛りとして卒然消えるが如くにその姿を滅してしまつた」(『美術史』12、1954年)と書いています。辻が花染は、特徴的な名称、雅趣ある文様、「卒然」と姿を消したことなどが相俟って、これまで多くの染織研究者や古美術愛好家を引き付けてきました。

辻が花染の絞りには、紅や紫、萌黄、藍など比較的はっきりした色彩が用いられています。遺品の多くは、紅が変退色して薄茶色になり、紫や萌黄からも鮮やかさが失われています。さらに、摺箔の金もほとんど剥がれ落ちています。そのため、私たちが目にする辻が花染は「独特な寂しさ」を感じさせるものが多いといえます。しかし、製作された当時は、紅や紫、萌黄などを組み合わせた染色は鮮やかで、金箔も輝きをみせる華やかな染織品だったことでしょう。

辻が花染は、絞りのみ、絞りと描き絵、絞りと刺繍や摺箔など、様々な技法の組み合わせにより異なる印象を与えます。そのなかに、紅や紫、萌黄、藍などで藤や椿、桐などの植物を染め分け、さらに墨で文様を隈取りし、葉に宿る露や病葉(わくらば)を描きだした辻が花染があります。これらの辻が花染にみられる墨絵は、暈し(ぼかし)を多用し繊細優雅な味わいを醸しだしています。

辻が花染と同様、葉に宿る露や病葉を文様に描いている工芸品に高台寺蒔絵があります。高台寺蒔絵は、豊臣秀吉の菩提を弔うために正室の北政所が建立した高台寺に伝わる桃山時代を代表する蒔絵様式です。豪壮で絢爛豪華な文化を生みだす一方で、閑雅な文様を工芸品に描きだしているところに、桃山文化の多面性が表われていて大変興味深く感じられます。

京都華頂大学教授 馬場まみ

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