京の彩り・染と織

八橋杜若 (かきつばた)

2015年05月

江戸時代の小袖には、さまざまな文様が描かれました。そのなかで、古典文学を題材にした文様にも独特の魅力があります。文様の題材としてしばしばとりあげられたのが、『伊勢物語』の東下りの段です。『伊勢物語』は、在原業平を思わせる人物を主人公にした歌物語です。三河の国の八橋というところに杜若が「いとおもしろく」咲いているという場面から、八橋に杜若を配した文様がうみだされました。尾形光琳の「八橋蒔絵螺鈿硯箱 (やつはしまきえらでんすずりばこ) 」(国宝、東京国立博物館蔵)は、八橋と杜若を文様化した工芸品として有名なものの一つです。この硯箱では、杜若の花を螺鈿で、葉と茎を金蒔絵で表現しています。

小袖にも、八橋文様がみられます。『友禅ひいながた』(1688年)の「八橋かきつばた」では、地色を「ふじねすみ」(藤鼠)色にして、橋を白、水を薄浅葱色にして、杜若を彩色すると書いています。八橋文様の実物の小袖も、数多く残されています。

友禅ひいながた(杜若)『友禅ひいながた』(国立国会図書館蔵)

江戸時代の小袖の文様題材にとりあげられた文学は、『源氏物語』『伊勢物語』『平家物語』『和漢朗詠集』など多岐にわたります。江戸時代の女性の教養書である『秀玉百人一首小倉栞』(1836年)には、女性は「源氏物語、いせ物がたり等をはじめ、仮名がきの草紙、ものがたり」を読むのがよいと書かれています。高位の武家や裕福な町人階層の女性たちは、文学をたしなみ、その一場面を文様に描いた衣を身にまとい、装う人と見る人がともに文学の世界を愉しんでいたようです。

さて、京都の杜若の名所としては、平安神宮がよく知られています。平安神宮は、平安遷都1100年を記念して1895(明治28)年に創建されました。庭園では、春のしだれ桜、初夏の杜若や花菖蒲、秋の紅葉など四季折々の景色を楽しむことができます。

 

京都華頂大学教授 馬場まみ

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