京の彩り・染と織

<春>こうばいのにほひ(紅梅の匂)

2015年02月

馥郁(ふくいく)とした香りを放ち、寒中に咲く梅は、古来、多くの人々に好まれてきました。梅を愛でるという文化は、中国からもたらされたものです。奈良・平安時代以来、貴族たちは、高潔さを感じさせる梅の美しさをたたえ、和歌に詠み、絵画に描き、工芸品の文様に用いてきました。

さて、平安貴族の女性たちは、どのような服飾文化を育んでいたのでしょう。女性たちが大切にしたことの一つが、装いで「季節」を表現するということです。四季折々の自然の美しさを、服飾で表わそうとしました。平安貴族の女性の正装は、「女房装束」(十二単)と呼ばれます。この女房装束では、何枚もの衣を重ねて着ます。その衣の色彩に、季節を感じさせる工夫を凝らしたのです。

春には、春の植物や風物を、衣の色の組みあわせで表現します。平安時代の末期に源雅亮(まさすけ)が著わした『満佐須計(まさすけ)装束抄』には、四季折々の色の組みあわせが多く紹介されています。その一つに、「こうばいのにほひ」(紅梅の匂)があり、「うへはうすくて、したへこくて、あをきひとへ」(上は淡くて、下へ濃くて、青き単)と説明されています。「匂」とは、グラデーションです。「こうばいのにほひ」では、肌に近いところから、青(緑)の衣の上に、濃い紅梅色から薄い紅梅色に五色に染めわけた衣を重ねます。

「こうばいのにほひ」は、紅梅色の濃淡を組みあわせて、早春に咲く「紅梅」を表わしています。「こうばいのにほひ」のほかにも、「むめぞめ」(梅染)や「むめがさね」(梅重)がみられ、「白梅」を思わせる色を入れるなど、さまざまな色の重ねが工夫されました。女性たちが、趣向をこらして梅の美しさを表現しようとしていたことがうかがえます。色鮮やかに染められた絹はつややかに美しく、身にまとう女性のあでやかさを引きたてたことでしょう。

京都華頂大学教授 馬場まみ

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